夏
ブー……ン、と小さな音を鳴らし、首を回しながら風を送る愛しきレトロな冷房機器。愛する者の視線を独り占めしたいと思う事の何が罪だろうか。誰が止められようか。あぁ愛してるぜ扇風機……。
「退けウノ」
不躾な脚に扇風機の前を陣取っていたウノは蹴り飛ばされる。人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死ぬんだぜ?
「うるせぇ人ん家の扇風機占領すんな」
「しょうがねぇじゃん、つかなんでジューゴの部屋エアコン壊れてんだよ。こんな暑い日に限って」
「じゃあお前の部屋のエアコン使えよ」
「電気代勿体無い」
苦学生のウノが、ジューゴの部屋に涼を求め学校帰りに入り浸る。代わりにジューゴは課題をウノに見てもらう。普段ならば、二人の利害はこれで一致していた。ところが最高気温が38度にも届く今日に限って、ジューゴの部屋のエアコンが壊れていた。勉強なんてできたものではない。諦めて図書館にでも行くか。
「てかリビング使えねぇの?」
「あー……」
視線をふらつかせながら歯切れの悪い返事をするジューゴが、手を口元に当て机に体を乗り出す。
「緋色が橙子をデートに誘うから邪魔するなって」
……お熱いことで。だが熱さならウノ達も負けてはいない。外気と内気が同化しつつあり、室内はほとんどサウナだ。扇風機は生温い空気をかき混ぜるだけで、涼などほとんど得られない。汗で頬に張り付く髪を耳にかけ、シャツを扇ぎ少しでも服の中の熱を外に逃がそうとする。
そういえば、オレとジューゴが最後にデートをしたのはいつだったか。恋人としての時間はいつ過ごした?
気付いてしまえば、ジューゴの気怠げに火照った揺らぐ眼も、首筋に伝い落ちる汗も、服を煽ぐ度に見える胸元も、全てが目に毒となった。気温によるものとは違う熱が、体内からじんわりと灯る。
どのみち二人とも勉強など等に諦めている。ジューゴの頬に、彼よりも色の白い指が這わされる。ぴくりと肩を揺らし、指の持ち主の顔へと移された瞳は何を見たのか、少し目を見開き顔をほわりと赤く染める。可愛い。
「ジューゴ、オレ達って付き合ってるよな?」
「う、うん……」
それがわかっているなら充分だ。ウノはジューゴの顔を引き寄せ噛み付くようなキスをし、ジューゴが背もたれにしていたベッドに、持ち主を押し倒した。暑さでじっとりと汗ばむ首筋に唇を落とすと、焦ったように押し戻される。
「し、下に、橙子とか、いるんだぞ……!?」
「声出さなきゃ平気だろ」
ウノはジューゴのスラックスからシャツを引き抜きながらそう押し切る。普段ならもう少し冷静なウノの頭は、暑さに完全に茹っていた。
シャツのボタンを外し、汗で張り付いたボーダーのTシャツを無理矢理たくし上げる。晒された肌に手を這わすと、ウノの少し冷たい指先に常より熱を持った腹が温度差にピクッと反応する。
階下でガチャリと扉が開いた音がし、直後にバタンと閉まる音。緋色は無事デートに誘えたのだろう。
「下、居なくなったな」
「…………っ」
「他になんかある?」
ジューゴとて、ウノと性的な触れ合いをするのが嫌なわけではない。むしろ久々な上、香水に混じったウノ本来の体臭がいつもより強く、さっきから腰の奥辺りがムズムズしてしょうがない。ウノがジューゴの乳輪をなぞると、むずがるようにジューゴの喉が鳴る。ウノの肩に置かれたジューゴの静止が緩んだ。
その後二人は仲良く熱中症を起こし、猛暑の怖さを思い知る。
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