添い寝


 黒いネイルに彩られた手が小さな頭を撫で、ふわふわとした身体を抱き締める。

様々な色を世界を映す瞳は瞼に覆われ、しばらくしてから穏やかな寝息が聞こえ始める。九を抱いてると暖かくて寝付きが良くなる。以前ジューゴがそう言っていた。暖かくて抱きしめられる。それってオレじゃダメなんだろうか。ジューゴに淡く恋募するウノは、少し欲を張って

みる。


「ジューゴ、寝れねぇの?」


 消灯時間もとうに過ぎ、ロックもニコも寝付いたというのに、時折もぞもぞと動く隣の布団にウノは囁く。もそりと顔を出し「ウノこそなんで起きてんだよ」と囁き返すジューゴに少し顔を近づけて言葉を息に乗せる。こういう夜は人との距離が縮まる気がして好きだった。


「んー、なんとなく?なぁジューゴ、寝れないんならさ、オレの抱き枕なってくんね?」

「はぁ?」

「オレなんか抱き締めてないとたまに寝れなくなんだよ。ジューゴはあったかいと寝付きよくなるんだろ?一石二鳥ってやつ」

「えー…」


 なんか抱き締めてないとたまに寝れなくなるのは本当。でもちょっと強引だったか。ウノがどう誤魔化そうか考えてると、ジューゴが布団を抜けウノの布団にスルリと潜り込んだ。


「やっぱちょっと狭いな」


 そう言って少し笑いながら猫が甘えるように擦り寄ってくるジューゴに、ウノは自分が言い出したことにも関わらず逃げたいような不思議な気持ちになる。右手をジューゴの腰に回し抱き寄せてみる。ジューゴの体温、パサリと髪が頬をくすぐる。心音が少し速まった。一生分の鼓動を少し前借りして代わりに幸せをもらっている。


「ジューゴの足ちょっと冷たいな」

「ちょっ、くすぐったい…!」

「あっためてやってんの一」


恋人同士、みたいだ。


「ウノは、オレよりちょっと心臓が速い、な」


 鼓動の前借りはオレだけ、だけど。だけど、ジューゴもちょっとは幸せだといいな。そう思いながらウノがジューゴを見るが、俯いていて彼の表情は伺えない。


「暖かいけど、ウノは九の代わりにはなんねぇな…」

「あ、あー..やっぱ猫じゃないとダメ、とか?」


 ふわふわと浮いていた心からヘリウムが抜けて地面に落ちる。ジューゴの顔が見たいが、依然俯いたまま。耳がチラリと見えるだけ。


「そういうわけじゃ、ないんだけど……なんか、ウノの心臓の音聞いてるとなんか…」


 ジューゴが自分の胸元に手を当て、己の鼓動に意識を向ける。


「なんか、釣られてオレも速くなってる、から、落ち着かない」


 相変わらずジューゴの表情は伺えない。見えるのは髪から覗く耳だけだが、暗くて輪郭しか伺えない。スッとジューゴの耳に触れて見るとウノの手より幾ばくか熱くなっていた。ウノの心に再びへリウムが注がれた。


二人の心音が重なる日は遠くない。