天まで透けて見えそうな透き通った空の青。その青を取り込みキラキラ反射しながらもどこか深い色をする青。その青の先は薄っすら白く、二つの青は交わることはない。屋上から水平線を見詰める鮮やかな世界を映す瞳は、空とも海とも違う、先ほど間近に覗き込んだ透き通った青を思い出していた。



 ただの事故だった。日に何度かあるもはや一種の娯楽と化した四人で行う脱獄騒ぎ。逃げて走って迷って避けて。一人だとすぐに捕まるが、四人だとすぐには捕まらない。トラップの位置は大体覚えている、ウノが。体力の無さでへばってもなんとかしてくれる、ロックが。一人じゃ無理でもコイツらが居るから大丈夫だと油断した。油断していたジューゴはウノの注意をちゃんと聞いていなかった。

 踏みしめたコンクリートがカチリと軽い音を立てる。やっちまったと認識すると同時にウノが「言ったそばから!」と叫びジューゴの腕を引っ張った。したたかに背中を打ち付け息が詰まり目を瞑ったのと、重厚感のある落下音が響くのはほぼ同時。直後ダンっと顔の横で音がし唇に柔らかい感触。恐る恐る瞼を開けると、空の色に似た、けれども空よりずっと色んな光が煌めいた透き通った青。見慣れた青の筈なのに、初めて見た色だと思った。もっと……見たい。


「おいお前ら大丈夫か!」

「ジューゴくん生きてる!?」


 隔離されていた空気が弾け青がパッと離れる。青の持ち主はカァッと頬を赤く染め「ジューゴ、大丈夫、男同士は、ノーカン、ノーカンだから、これはキスじゃない」とジューゴに呟き、安否を問う声に無事を伝える。


 ジューゴはやっと唇に触れていた物の正体に気付いた。





「あれ、キス…………だよな…」


 その後見事全員ゲームオーバー、心が掻き混ぜられ落ち着かないジューゴは一人でコンティニューを開始。南波刑務所の広い屋上で風に火照った顔を冷ましに来ていた。ウノとどう接すればいいのかが分からなかった。思い出すと心臓がどくりと大きく動く。

 透き通った青い空、時間が経てば赤が混じり、やがて青は塗り潰される。ジューゴが見た青と一番似ている、が


「ウノは……空の色と似てるのに……、混ざってなかったな」


 空は赤と混じり青は赤に取り込まれ夜になる。ジューゴが何より惹かれた青は、透き通った青に映りこんだ赤が反射していた。混ざって、消えず、赤が青を際立たせている。赤が緑に変わるると青が涼しくなった。他の色だとどうなるんだろう。青い瞳に映り込んだ色はなんだったんだろう。


「もう一回、見たいな……」